年金2000万円不足の報告書で多くのお客様から相談があるのではないでしょうか?
こちらのコラムでは、将来の年金受給額などの老後に向けての準備額はより少なくなる可能性が高いのではないか、という事を書きました。
今日は支出の項目に目を向けてみたいと思います。準備済資金が少なくなったとしても必要資金も少なくなるなら少しは安心できます。反対に支出が多くなる方向であればよりシビアに自助について検討する必要が出てきます。
支出項目を確認する
支出の項目を見ると、食料、住居、光熱・水道、家具・家事用品、被服・履物、保険・医療、交通・通信、教育、教養娯楽、その他消費支出、非消費支出、の11項目が記載されています。
11項目ありますが、2つに分けて考えることができます。
- 自分である程度コントロールできるもの(節約などができるもの)
- 自分でコントロールするのが難しいもの
食費や教養娯楽費などはある程度自分でコントロール、つまり出費を自分の意志で抑えることができる項目です。ところが、保険・医療と非消費支出は自分の意志でコントロールするのが難しい項目と言えます。
税金や社会保険の負担について、制度が変更になればそれに従って負担をする必要があります。健康寿命を延ばす努力はこれからは必要になってきますが、高齢になればどうしても医療機関を受診する機会が増えるのはある程度仕方がないことです。
つまり老後の準備をするに当たり、これら自分でコントロールすることが難しい項目の支出(負担)が今後どのような方向に向かっていくことになるのかを確認しておくことが大切になります。
以下2019年6月19日に公表された 「令和時代の財政の在り方に関する建議(令和元年6月19日)」 を基に今後の方向性について整理してみます。
保健・医療費の方向性は?
建議書では社会保障について、
- ⾼齢化の進展による受給者の増加や疾病構造の変化
- 少⼦化の進展による「⽀え⼿(現役世代)」の減少
- ノベーション等による医療の⾼度化・⾼額化の進展
という社会変化により現状のままでは社会保障の持続が困難との認識から以下3つの視点で改革が「必要」としています。
- 保険給付範囲の在り⽅の⾒直し
- 保険給付の効率的な提供
- ⾼齢化・⼈⼝減少下での 負担の公平化
私たちの医療費に深く関連するのが「保険給付範囲の在り方の見直し」です。基本的な視点は、「大きなリスクは共助、小さなリスクは自助」です。その中で負担増の方向性が示されているのは、 薬剤の⾃⼰負担 と少額の受診等に⼀定程度の追加負担 、です。
薬剤自己負担については、下図の例が掲載されています。実際には医療機関で処方してもらうには、診察料、処方料、調剤料などが必要になります。
建議書では、
市販品と医療⽤医薬品とのバラ ンス、リスクに応じた⾃⼰負担の観点等を踏まえ、薬剤の⾃⼰負担引上げについて具体的な案を作成・実施すべき
としています。
定額負担については、 「諸外国と⽐較して、我が国の外来受診頻度は⾼く、多くは少額受診。限られた医療資源の中で医療保険制度を維持していく観点からも、⽐較的軽微 な受診について、⼀定の追加負担は必要なのではないか。」と問題提起しています。
ちょっとした症状で医療機関に行くのを市販薬と定額負担で抑制し今後益々増えてくる高額薬や高度医療に重点を置いていく、という方向ですね。
定額負担のイメージ図も示されています。金額は示されていませんが、かかりつけ医以外で受診した場合には「自己負担+定額負担」となっていくようです。
こうして見ると将来の医療費の自己負担はやはり増加していく方向になりそうだという事が見て取れますね。負担を増やして今まで同様に受診するか、少し我慢をして受診回数を減らすか、医療も小さいものについては、工夫が必要になってくるかもしれません。
非消費支出の方向性は?
ここからは非消費支出について見てみます。建議書には「年齢ではなく能力 に応じた負担 」と書かれています。
現状を見ると、75歳の人が使っている年間の医療費91万円のうち35万円は現役世代が負担する後期高齢者支援金で賄われています。現在は74歳以下と75歳以上の人口の比率が、7:1なので74歳以下の人は一人当たり5万円の後期高齢者支援金を負担しています。
これが2025年になると5:1になることが予想されています。
このような状況の中、以下の方向性が示されています。
一つは窓口負担の増加です。
世代間の公平性や制度の持続可能性を確保していく観点から、まずはできる限り速やかに75歳以上の後期⾼齢者の⾃⼰負担について原則 2割負担とすべき 、と明記されています。
もう一つは負担の在り方について、です。以下2点が改革の方向性として示されています。
- 3割負担になる「現役並み」の範囲の拡大
- ⾦融資産の保有状況も負担の基準に
現在現役並みと判定されるのは、課税所得が145万円以上、ですが、同じ税負担でも高齢者世帯の方が所得が多いことが示されています。
さらに、 マイナンバーを活⽤して、所得のみならず、⾦融資産の保有状況も勘 案して負担能⼒を判定するための具体的な制度設計について検討を進めていくべき、と金融資産の保有も負担の基準にすることを検討しています。
支出は増加の可能性
こうして見てみると、すでに言われているように「年金だけでは少し不安」なだけではなく、「自分でコントロールできない支出も増えていくかもしれない」、ということが予想できます。
この部分についてもどのように準備しておくかをきちんと相談・提案することが必要です。益々私たちの役割は重要になってきているのではないでしょうか?
建議書には介護保険についての給付・負担の在り方なども記載されています。まだご覧になっていない方は是非一度ご覧になってはいかがでしょうか?参考資料3に上記で抜粋した記載があります。